2021/03/07

REMEDY

仕事やプライベートの悩み相談までOK!?杉本格朗さんが伝えたい漢方の魅力とは

右から杉本格朗(すぎもとかくろう)さん、弟の哲朗(てつお)さん

鎌倉・大船にある老舗薬局の三代目・杉本格朗さんにインタビュー。杉本さんは、“イライラ”や“クヨクヨ”など、さまざまな心の不調や原因や対処法などが書かれた漢方の本、『こころ漢方』を2019年に出版。

誰もが日々感じるちょっとした心の悩みに着目し、新しい視点で漢方薬や養生法を伝えている。 心の不調と漢方の関係や、漢方を広めるためにしている現在の活動について、詳しくお話を聞いてきました。

——杉本さんの著書『こころ漢方』では、身体の症状別ではなく“心の状態”を軸に書かれていますよね。心の部分に着目した理由はなんだったんですか?
「そもそも漢方の薬を処方する時に、“身体だけ診る”ということはあまりないんです。身体も心も、季節や気候など自然界を全て一体として考えて治療していきます。そんななかすでに身体や季節ごとで書かれた漢方の本はたくさん存在しますし、自分が本を書くなら日常の心の状態や、病気じゃなくても飲める漢方のことを中心に書いてみてはどうかな、と思っていたからです。」

——実際、心のお悩みで相談にくる方はいらっしゃいますか?
「本を出版してからは、以前に比べて、若い方や仕事が忙しい方、経営者などのご相談は増えました。本を読んでくださって、『こういう(心や身体の)相談をしていいんだ』と思っていただけたたんじゃないでしょうか。欧米ではかかりつけのメンタルトレーナーやカウンセラーがいる人が多く、ボディだけではなくメンタルケアをするのがよくあります。ただ、日本ではメンタルを整える=心療内科というイメージがいまだに強いようです。そうなると、あまり選択肢がない。でも心療内科に行くほどでもない…という軽いお悩みってあるじゃないですか。そんな時に漢方を活用してほしいと思っています。」


著書『こころ漢方』、杉本薬局オリジナルのお茶やスパイスなど

——杉本さん自身も、メンタルケアのために漢方は活用されているんですか?
「漢方も飲んでいますし、メンタルトレーナーさんにもお世話になっています。やっぱり忙しいと頭の整理ができなかったり、寝不足になってイライラしたりもしやすくなるので、調子を整えるためのケアは日常的に必要だと思っています。イライラ、眠れない、緊張している時などに漢方を飲んで自分で実践してみて、その体験や知識をもとに本を書きました。みなさんも身体のことでも心のことでも、もっと気軽に漢方薬局に相談していただけたらと思っています。対面はちょっと、という人はオンラインでご予約いただいても良いですし。」

——心の相談はどんな内容が多いのでしょうか。
「イライラしてしまう、という人は多いですね。あとは女性だとPMSとかも。考えこんじゃう気疲れとか、眠れない、という相談も多いです。以前、『失恋した』というお悩み相談もありましたよ。」

——そこまでプライベートな相談をしてもいいんですか!?
「全然、いいと思います。辛いじゃないですか、失恋って(笑)。時間が解決するところもありますが、その時間を過ごす間、落ち込んだり悲しんだりした時に漢方を活用して、少しでも楽になったらいいなと。漢方って費用が高いと言われがちですが、月に一回マッサージに行ったりするのと同じような感覚で、ひとつのメンテナンスと思えばそこまで高いものじゃないんじゃないかな、と思います。価値観は人それぞれですが。」

——杉本さんの経歴についてもお話伺わせてください。杉本薬局の三代目とのことですが、幼い頃から漢方は身近にあったんですか?
「そうですね。風邪をひいても治療は漢方薬で、有り難いことに病院にはまったく連れていかれませんでした。『何があっても家で治す!』は言い過ぎですが、漢方薬局に生まれると日常的に漢方を飲むのが当たり前で。でも特に父親からは『漢方の道にいけ』とも言われてなかったので、全く漢方と関係のない(と当時は思っていた)染織や現代美術の勉強や活動をしていたんです。今一緒に薬局で働いている弟も建築家ですし、誰も継ごうとはしていなかったのですが(笑)、父が体調を崩した時期があって、その時ちょうど僕もプラプラしていたので、『よそでアルバイトをするよりいいかな』と手伝い始めたのがきっかけです。」


海外での漢方ワークショップの様子

——そうだったんですね!そこから勉強しはじめたんですか?
「はい。漢方は飲んではいたけれど知識はゼロの状態だったので、そこから漢方の勉強会に行ったり、祖父や父とつながりがあった先生に教わったりしながら覚えていきました。最初は手探りでしたが、勉強すればするほど『漢方って面白いな』と思えてきたんです。陰陽五行論など、古くから伝わる自然の摂理や理論って数値だけで見るものではなく正解がない。かといって突拍子もない組み合わせをして効くものではない。抽象的なんだけど理屈がしっかりとしている。そんな成り立ちや背景が、自分が学んできた芸術の面白さにも通じているように感じました。」

——漢方の道にいったとき、まわりの反応はどうでしたか?
「まだ20代だったので、漢方のことを詳しく知っている友達はあまりいなかったんですが、自分が飲んでよかったものを自然と勧めていくうちに、興味を持つ人は増えていきました。たとえば、朝鮮人参を夜飲んだら、『一回瞬きしたと思ったらもう朝だった』というくらいぐっすり眠れた経験があったんです。でも朝鮮人参って睡眠改善に働きかける効果がメインではなくて、気を補うためのものなんです。だからたぶん気が弱っていたんだと思うんですけど、とにかく朝起きるのが楽になったので、ずっとそれを飲むようになって、友達にも勧めたりとか。そのほかにも『お酒を飲んだあとにこれ飲むと翌日楽だよ〜』とか、ライフスタイルに役立つ情報としてお伝えしていた感じです。」

——現在は東京に住んでいるとのことですが、ご実家も仕事場も鎌倉・大船にあるのに関わらず、なぜ拠点を東京に移したんですか?
「東京には友達と飲むためによく通っていて、その場で友人に漢方を勧めたりしていたんです。その場では『飲みたい!』と言ってくれるんですが、かといってわざわざ鎌倉まで買いには来れない方が多くて。じゃあこっちから行った方が早いかなと思って。それに、東京は忙しい生活を送っていたり、ストレスを溜めている人が多いように感じていたので、そんな人たちが少しでも漢方で楽になってくれたらという想いもありました。それで思いきって二拠点生活にしたんです。うまくいかなかったら2年で地元に帰ろうと思っていました。家賃の更新がちょうど2年なので(笑)。でも東京移住したらちゃんと仕事もついてきたので、そのまま住んでいる、という感じですね。移り住んでから4年くらい経ちます。」

杉本さんは東京でのイベントや逗子映画祭での出店のほか、フランスやイタリアなどの海外でも漢方イベントを開催。幅広い活動を行っている。ただ、今は新型コロナウィルスの影響でイベントなどの開催はなかなか難しい状況だ。


——イベントなどが開催できない今、薬局での業務以外はどのような活動をされているんですか?
「昨年末から、インスタでライブ配信をしています。表参道にある『eatrip soil』というショップのインスタで、精神科医の星野概念さんと2人で「Time Therapy」というタイトルで、まさに“時間の過ごし方”、“こころとからだにまつわること”をテーマに毎月トークライブを開催しているんです。その季節に合ったことや、最近のお悩み相談などを、精神科医の目線と漢方薬局の目線で話すんですよ。星野先生はミュージシャンもされていて、発想が面白いんですよね。“ラブという薬”や“自由というサプリ”という本を出していたり。また、このイベントがきっかけとなり今年からeatrip soil内にも漢方相談所『杉本漢方堂Soil』を設け、漢方相談も鎌倉と東京の二拠点となりました。」


星野概念さんとのトークライブ

——ライブ配信はその場で質問もできるからいいですね。今からの季節、気をつけることはありますか?何かアドバイスがあれば教えてください!
「冬から春に変わり、眠っていたものが動き出し、環境の変化も多いく、気持ちが不安定になったりゆらぎやすい時期です。気分を落ち着かせるにはナツメやサフランなどがおすすめです。どちらも自分の好きな茶葉に混ぜて飲むようにすると普段の生活に取り入れやすいです。春先はまだ冷えもあるので、ショウガやシナモンを入れても良いです。このあたりのものはスーパーなどでも手に入りやすいと思います。」

——そんな風に、もっと日常的に漢方を取り入れる文化が広がるとよいですよね。
「そうですね。段々変わりつつあるとは思ってはいますが、もっと多くの方に知ってもらいたいです。いろんな漢方の専門家がいますがが、僕は漢方相談とともに、漢方を知るきっかけ作りだったり、みなさんがトライしてみようと思える形を提案する役割も担っていきたいと思っています。」

——薬局でのお仕事を基盤としながら、さまざまな活動をしていくのはとても大変ですよね。その原動力はなんですか?
「漢方に多くの人たちに触れてもらいたい、漢方を一つの文化として広め、繋げていきたいということがモチベーションではありますが、もともと人が好きというのもあります。しゃべるのも好きだし、人の話を聞くのも好きなんです。なので、もちろんお仕事ではあるのですが、ライフワークとしてやっている、という感じです。自分をきっかけに、漢方薬局を身近な相談場所という認識を持ってもらえたら嬉しいです。」


拠点を東京に移し、コミュニケーションを大切にしながら漢方を啓蒙し続けている杉本さん。それはすべて、漢方を通じて「心も身体も健やかな人が増えてほしい」という願いから。それは、ビープルも同じく目指している想いだ。 杉本さんは忙しい中、日々薬局に立ち続けている。鎌倉方面を訪れたら、気軽に立ち寄ってみては? 



杉本薬局
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住所:神奈川県鎌倉市大船1-25-37
TEL:0467-46-2454
営業時間:10:00〜18:30
定休日:木曜・日曜・祝日・年末年始
HP:https://sugimoto-ph.com/
@sugimoto.ph

Text by Sonomi Takeo