2020/07/13

from BIOPLE

ごみのない社会を目指す|上勝町「WHY」の全貌とは

徳島県上勝町にオープンした環境型複合施設、上勝町ゼロ・ウェイストセンター「WHY」の全貌をレポート!そこから見えたこととはー

改めて、2020年5月30日、「ごみゼロの日」に、徳島県上勝町に環境型複合施設上勝町ゼロ・ウェイストセンター「WHY」がオープンした。今回の大きな目的は、ココを取材し、皆さんにいち早くお伝えすることだ。

前回の記事でもお伝えしたが、上勝町の、2020年までにごみをゼロにするという宣言から、今年報告されたのは、“80%達成”という事実だった。町にとってこれは、取り組んできたことへの達成感とともに、残り20%という、数字よりも重く深い覚悟のようなものだったに違いない。
20%には、高齢化に伴って増加している使い捨てのオムツや生理用品、使い捨てカイロ、使いかけの塗料や化粧品、長靴などの塩化ビニールの商品などが挙げられる。製品そのものが資源に分解できなかったり、リサイクル技術が発達していないことなどが理由だ。ゴミがゼロにならないのは、この町が社会に出したひとつの答えだ。この町から、訪れた人やこの記事を読んだ人に繋げられた大きな課題でもあるのだろう。

というわけで、構想約10年、あらゆる方面のプロフェッショナルたちとタッグを組み、環境型複合施設上勝町ゼロ・ウェイストセンター「WHY」がオープンした。
いったいどんな施設なのかー。
“ごみから学ぶ”をコンセプトに、リサイルクごみ集積場の「ごみステーション」、「リサイクルショップ」、「ゼロ・ウェイストアクションホテル」、「セミナールーム」、「ラボ」が同居している。ココから彼らが伝えるメッセージを先に記しておくことにする。

WHY do you buy it?
WHY do you throw it away?
なぜそれを買うのか?
なぜそれを捨てるのか?
私たち消費者は問いかけられます
WHY do you produce it?
WHY do you selt it?
なぜそれを作るのか?
なぜそれを売るのか?
私たち生産者は問いかけられます
上勝町ゼロ・ウェイストセンターでは、WHYという疑問符を持って生産者と消費者が日々のごみから学び合い、ごみのない社会を目指します。

彼らはもはや町の中だけで、町のことだけを思ってゼロ・ウェイストを宣言したのではない。ココに訪れた全ての人に、「WHY?」と問いかけ、その「WHY?」が町を飛び出し、日本中、世界中へと広まり、問いかけ続け、社会全体を変えていくことを決意したのだろう。
是非皆さんにも一度この施設を訪れていただきたいのだが、まずはココで、できる限り詳細を伝えていくことにする。


22歳の若きリーダー

左の女性が大塚桃奈さん

「WHY」は町の公共施設でありながら、地域の民間企業である、株式会社BIG EYE COMPANYが管理運営を行なっている。このプロジェクトをスタートしたのは、BIOPLE FES vol.9 でトークショーに登壇してくださった、衛生検査と分析を通し食の安心と安全をサポートするSPEC Bio Laboratory inc.代表・田中達也さんだ。地域再生を任され、ブランディング・ クリエイティブプロダクション ・ エクスペリエンスデザインとして株式会社トランジットジェネラルオフィスを、建築設計として中村拓志&NAP建築設計事務所を巻き込んでいくわけだが、いったいこの施設のリーダーは誰が担うのかー。2018年末、代表取締役の募集を開始した。
そしてこの春、遂に新卒の大塚桃奈さんが就任したのだ。
彼女は高校3年でイギリス・ロンドン芸術大学にファッションを学ぶために短期留学した際、物がどのように作られ、使われ、捨てられていくのかを見つめ直すようになったと言う。日本の大学で公共政策を専攻し、環境研究を副専攻していたこともあり、留学をきっかけに日本の状況を調べていき、上勝の取り組みを知ったそうだ。
今回の取材では、彼女がとても丁寧に、そして楽しそうに、施設のことを説明してくれた。滞在中どこでお会いしても快活な態度で気持ちよく、そして町民にしっかりと愛されていることが伺えた。彼女がこのプロジェクトを、そして美しい未来を先導するリーダーとなったのだ。

ごみの45分別の先にあること

ゴミステーション入り口のギャラリーボード

到着すると、広い駐車場から施設全体を見渡すことができる。宿泊者には、チェックインの際に、必ず施設のツアーをしてくれることになっている。
まずはごみステーション。入り口には黄色のギャラリーボードが設置され、この町のゼロ・ウェイストにおける歴史や、施設の役割が書かれている。


ごみの分別場

そしてごみを分別する場へ。45分別と聞いてもあまり想像ができなかったのが正直なところだが、実際に見た45分別はもちろんとても細かく、しかし驚くほど美しく整理されていた。ここに生ごみがないことは前回お伝えしたように、各家庭で堆肥化しているからなのだが、それによりごみの嫌な臭いは全くない。むしろ自然に囲まれた環境そのものの香りが楽しめるほどだ。そして分別ごとのコンテナには色々と記載があった。


各コンテナの上に記載された分別の詳細

まず、ごみが “燃える or 燃えない” ではなく、“リサイクルできる or できない” という考えに基づいた分別になっている。右上には「入」「出」の文字があり、資源にすることによって町にお金が “入る or 出る” が記載されているのだ。さらにそれがどこでどんな資源となるのか、その売払価格又は引き取りにかかる値段まで明確に書かれていたことに驚いた。
例えば、プラスチックマークが付いたごみと言え、洗って乾かして捨てるのが基本!これらはプラスチックの資源として戻ると記載されているが(ちなみに世界的にはこれも燃やしているとして、リサイクルとは見なされないので、今後は減らしていきたいとのこと)、一方、カレーのような、洗ってもなかなか落ちないプラスチック容器などは、通常のプラスチックとは別に分類される。これは県内で固形燃料に生まれ変わるのだが、そのためには53.8円(kg)が “出る” ことになる。
お金になるごみは、年間250万〜300万ほどの収入となり、分別を丁寧に行えば行うほど、価値が高くなっていくわけだ。
ちなみに、対象物の資源をきちんと分別した町民に対しては、「ちりつもポイント」が貯まる仕組みがある。貯まったポイントは町内で使用でき、環境に配慮した日用品や商品券などと交換することができるそう。こんなシステムこそが、皆が自分ごととして考え始めるきっかけになるのかもしれない。

そもそも “ごみ” って?
ここまではリサイクルの話だが、次は “リユース” の話を。
ごみステーションからグルッと施設を歩いていくと、「くるくるショップ」という名のリユースショップがある。


くるくるショップとレセプションエリア

町民が不要になったものを持ち込めるお店だ。自分にとっては必要なくなった洋服や陶器も、誰かにとっては必要なものかもしれない。ここにあるものは自由に持ち帰ることができ、ものが “くるくる” と循環していく場所だ。持ち帰るのは町民だけでなく、町外の人もOK!
そもそもごみとは、使って役に立たなくなった紙くずや食物のくず、その他の廃棄物のことを指す。しかしその “役に立たない” は一人一人が主観的に考えているものだ。「もしかしたら他の人の役には立つものかもしれない」、そう考えてサイズダウンした洋服や、収納できなくなってしまったお皿を、一度他の人に見せてみることは、決して難しいことではない。そして誰かがまた使うことになったのなら、それはもう“ごみ”ではなく、大切な資源だ。
実際にこの施設は、全て “元ごみ” から作られている。建築設計を行った中村拓志さんは言う。「町民との説明会を開き、特定の廃材を募集しました。すると700枚の建具が集まったんです。それを一つずつ採寸し、補修し、パズルをしながら設計していきました。通常はカタログから選ぶわけなので、真逆の行為を行っていきました。そんなプロセスは面白かったです。」


レセプションに飾られた空き瓶照明

レセプションスペースには、空き瓶による大きな照明が象徴的に飾られていたり、建具が施設全体に巡らされていたり…「これは何からできているのだろう?」そんな視点で建物探訪するのも楽しいはずだ。全てのものに歴史が刻まれている。

子供から大人まで、環境問題を考える場

施設外観には町のごみだった建具が配されている

その他の施設機能は、まずキッズルームとキッチンのついたセミナールーム。本棚にはBACH選書による環境系の本が並んでいる。
今後はイベントやワークショップを行うスペースとしてレンタルしていくそうだ。使用していないときは、コミュニティースペースとして町民や滞在者の憩いの場となる。キッズスペースに組み上げられたブロックは、花王が回収したごみから生まれ変わらせたものだそう。このようにあらゆる企業とタッグを組み、活動が広がっていくことで、ココが、子供から大人まで、誰もが環境問題を考える場所になっていくはずだ。


ラボ内のコンテナでできた本棚

隣にはラボラトリーがある。研究機関などに月ベースで貸し出す、サテライトオフィスのようなスペースだ。壁に象徴的に並べられたコンテナも、もちろん “元ごみ” 。
ちなみにセミナールームとラボの間には、コインランドリーが設置されていた。上勝は雨が多い地域のため、需要が多いそう。こんな親切も、町民たちが日常で集まってくる温かい仕掛けなのだろう。

さて、次はいよいよ私たちが滞在したホテルのご紹介…というところで、それはまた次回の記事で!


上勝町ゼロ・ ウェイストセンター (WHY・ワイ)
住所:徳島県勝浦郡上勝町大字福原字下日浦 7 番地2
代表メール:info@why-kamikatsu.jp
Instagram:why.kamikatsu

Text by 関 早保子