2020/07/12

from BIOPLE

徳島県の小さな町・上勝町が、日本の美しい未来を先導する

2020年5月30日、「ごみゼロの日」に、徳島県上勝町に環境型複合施設上勝町ゼロ・ウェイストセンター「WHY」がオープンした。この町は、間違いなく日本の未来を引っ張っている。

徳島空港から車を走らせること約1時間(市内から約40分)、上勝町という小さな町を訪れた。段々畑が広がり、山々に囲まれ、美しい川が流れる、とても空気のおいしい場所だ。
ここに、環境型複合施設上勝町ゼロ・ウェイストセンター「WHY」がオープンし、その取材が今回の目的だった。今回から3回の連載でその全貌をお伝えしていくことにする。

施設については、次回の記事でじっくりと紹介予定だが、まずは皆さんに上勝町が目指している未来についてお伝えしておこうと思う。

徳島阿波おどり空港に着いてすぐに車を走らせて向かったのは、PCR検査を受ける場所。徳島県内における新型コロナウイルスの感染者数は累計6名(2020年6月末までの報告)と低い。今回の目的地から、検査を受けるように指示があったのだ。検査結果は2時間後ということで、改めて上勝町に向かった。

穏やかで、とても美しい町に到着した。
上勝町は、人口1500人ほどの、四国イチ小さな町。料理に添えられる「つまもの」の町として知られるが、この町をさらに有名にしたのは、2003年9月の国内初「ゼロ・ウェイスト宣言(*)」の発表があったからだろう。2020年までにごみをゼロにするという目標を掲げたのだ。
(*)未来の子どもたちに綺麗な空気やおいしい水、豊かな大地を継承するため、2020年までに上勝町のごみをゼロにすることを決意し、上勝町ごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)を宣言します。
1. 地球を汚さない人づくりに努めます!
2. ごみの再利用・再資源化を進め、2020年までに焼却・埋め立て処分をなくす最善の努力をします!
3. 地球環境をよくするため世界中に多くの仲間をつくります!

この宣言は、ごみをゼロにする、イコールごみをどう処理するのか、ということではなく、ごみそのものを出さない社会を目指す、というものだ。

容器包装プラスチックごみの一人当たりの発生量を国別で比較すると、日本はアメリカに次いで世界で2番目に多いというデータ(*)がある。
そんな中日本では、7月1日から全国の小売店で、プラスチック製のレジ袋を有料にすることが義務付けられた。ここには、生活に身近なレジ袋の有料化によって、環境問題への意識を高め、ごみの削減につなげていく環境省の想いがある。
(*)国連環境計画(UNEP)が2018年に発表した「使い捨てプラスチックに関するレポート」より

そんな日本で、この上勝町は何故ごみ問題に対するアクションをいち早く行ったのだろうか。


奥に施設を眺める美しい上勝町の景観

このエリアはもともと野焼き場だったそう。しかし県からの指導もあり、野焼きの代替手段として、焼却炉を買うものの、ダイオキシンの基準値を超えて3年足らずで使用できなくなったという。それ以来、焼却炉を新設するのではなく、徹底的に燃やすごみを減らす政策を独自で行ってきた。裏には、過疎化、高齢化の問題に直面し、財政的余裕がないという危機感もあったそう。焼却炉を使わない方法を模索し、知恵を絞った。いっときの対処ではなく、根本から仕組みを変えていかなければならない…こうしてゼロ・ウェイストに向かって歩み始めたのだ。

町がごみの資源化に取り組む中、ゼロ・ウェイスト運動を先導していたアメリカから、セントローレンス大学のポール・コネット博士の勧めを受け、遂に日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言を発表した。未来の子供たちに美しい郷土を継承するため、2020年までに焼却、埋め立てごみを、町の中でゼロにするという未来を描いたのだ。これは日本において前例はなく、歴史的一歩だったと思う。
ちなみに、宣言時に町では、すでにごみの34分別を行なっていた。

まずゼロ・ウェイストに向けた第一歩となったのは、「生ごみ」を堆肥化することだった。全戸を対象にごみの排出量調査を実施したところ、生ごみが全体のごみの30%をも占めていたというのだ。このことから、各家庭で生ごみコンポスト対応を実施。電動の生ごみ処理機の購入を町がサポートし、個人負担額は10,000円に留めた。また飲食業者の場合は、業務用電動生ごみ処理機を組合で管理し、町が電気料金などの一部を補助することを決定。

このように確実に一歩ずつゼロ・ウェイストへの歩みを進め、約束の2020年を迎えた。現在は13種類45分別に取り組み、リサイクル率80%を達成した。

しかし、80%だ。目指すのは、ごみ・ゼロ

住民一人ひとりの努力だけでは、全てのリサイクルは難しく、また廃棄されるごみの中には、リサイクルする技術がなかったり、コストがかかったり…。未だ問題は山積みだ。それらを解決するきっかけとして、あるプロジェクトが立ち上がった。
このプロジェクトというのが、冒頭でお伝えした複合施設ゼロ・ウェイストセンター「WHY」ということで、次回に続く。

ちなみに、今回の視察・取材に訪れたメンバー全8名、無事にPCR検査で陰性という結果を聞き、すぐにマスクを取り、上勝のクラフトビールで乾杯したことを報告しておこう。

Text by 関 早保子