2023/12/03

INTERVIEW

【湘南PEOPLE】テーブルウェアブランド『HOMARe:』ディレクター・小島あり彩さん|「“伝え手”として、日本の伝統工芸と自分を大切にする食卓の時間を伝えていきたい」

鎌倉のなかでもゆったりとした時間が流れる住宅街、材木座に住む小島あり彩さん。有田焼を中心としたテーブルウェアブランド『HOMARe:』のディレクターとして活躍中の小島さんがなぜ伝統工芸に携わるようになったのか、その想いや経緯のほか、鎌倉でのライフスタイルを伺ってきました。


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――あり彩さんが運営されているブランド「HOMARe:(ホマレ)」は、どんなコンセプトなんですか?
「『日常の食卓に心の豊かさを』をコンセプトにしたブランドです。忙しい女性の食卓をイメージしています。現代の女性は仕事や趣味、家事などとにかく色々やることがたくさん! そうなると、ついおざなりにしがちなのが食卓の時間。でも、日中はバタバタと動いている人こそ、せめて食事の時間くらいは『静』の時間をとってほしい。そんな想いで3年ほど前にブランドを立ち上げました。
かくいう私がそんな女性の一人で、25歳で起業してずっと走り続けてきたので、あまり食卓の時間をゆっくりとっていませんでした。だから、私自身のために作ったブランドでもあります。」

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「HOMARe:」の器たち。食卓にあるだけで、毎日に豊かな彩りを加えてくれる

――とても素敵な器ばかりですが、どんなことにこだわっていますか?
「器は有田焼を中心に一つひとつ丁寧に職人さんによって作られていて、手仕事のぬくもりが感じられます。こだわっているのは大人の女性が料理や食事の時間が楽しくなるような、心ときめくデザインであるということと、何より使い勝手がいいことに重きを置いています。せっかく素敵な器なのに、『割れたらやだな』とか、『電子レンジで使えない』となると、出番が減ってしまいます。お気に入りの器こそ気軽に使ってほしいので、電子レンジや食洗機もOKな素材にしたり、磁器の中でも強度の高い特別な生地にしたりと、日常使いができるように工夫しています。」

――器はもともと興味があったんですか?
「う〜ん、普通、ですね(笑)。そこまで興味があったわけじゃないし、使えればいいや〜、くらいで。伝統工芸品にも興味がなかったんです。」

――では、なぜ有田焼を?
「それが、きっかけは不思議な流れで。私はWebマーケティングのお仕事もしていて、そのときに知り合った方がとても面白い人だったので、大阪の人だったんですけど後日大阪のオフィスまで遊びにいったんです。そこで、『小島さんは何がやりたいの?』と聞かれて、自分でブランドがやりたいということと、『地球にも人にもやさしくて、みんなにとって良いことをやりたいんですよね』とお話したんです。そしたらその方が、『有田焼とかいいんじゃない?』とすすめてくれて。その後有田焼の窯元まで一緒に行ったんです。そのときは、職人さんと何か一緒にプロジェクトができたらいいですね、という話はあって、小さなプロジェクトを立ち上げましたが、そこまで本格的に進んでいなかったんです。でも、このとき有田焼の器に出会い、料理が楽しくなったり、盛り付けに自信が持てるようになったり、食事をちゃんととるようになったり、自分自身に変化があったんです。だからいずれちゃんと携われたらなぁ、とぼんやりとは思っていました。

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食卓に置いているだけで華やかになる「HOMARe:」のカップ

そんな折にコロナ禍になり、緊急事態宣言が出て世の中の経済がストップしてしまった。窯元さんや有田の方々は大丈夫かな、とふと心配になって、お電話してみたんです。そしたら『(コロナの影響で)窯元をたたんだところもある』とおっしゃっていて。その影響の早さ、大きさに驚きました。飲食店に卸している窯元も多いので、飲食店の営業がストップしたことで経営難に陥ったり、もともと小さい窯元で後継ぎがいなかったりすると店をたたむ後押しみたいになってしまったみたいで…。東京で何かできることがあれば、とWebマーケティングのお仕事で培った知識で、オンライン上での販売をしてみました。」

――反応はどうでしたか?
「まわりの反応はとてもよくて、思った以上に売れたんです。そのときは職人さんが少しでも潤えばとこちらで利益を乗せたりせず、なるべく原価に近い形で販売したので、コスパの良さもよかったのかと。これは何かお手伝いできるかな、と思えました。
その後すぐに、スイーツブランドを営んでいる友人が渋谷スクランブルスクエアでPOP-UPをやるので、一緒にどう?と誘ってくれて、それをきっかけにブランド名を考え、一気に数百枚の器を仕入れました。今ではオリジナルがほとんどですが、当時は時間もなかったのですべてセレクトで。施設の担当者は、あまり売れるとは思ってなかったみたいですね。そこはコスメフロアで、器を販売したことはなかったみたいで。でも、ふたを開けたら予測していた4〜5倍売れたんです。自分が考えていたことは間違ってなかったんだな、と確信しました。」

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写真は伊勢丹新宿店のポップアップにて

――ブランドを立ち上げて3年とのことですが、今後の展望があれば教えてください。
「今後は海外展開をしていきたいです。最近、台湾で約3ヶ月間販売をしました。いろんな国へと販売ルートを展開して、日本の宝である伝統工芸を世界に伝えていけたらと思っています。
あとは、未来の展望ですが、伝統工芸の技術を伝えていく場を作りたいと考えていて。今、伝統工芸の世界では後継者となる職人が少ないという現状があります。やはり長い年月、つきっきりで修行しないとならないということがネックになっているようです。色々な国を旅した経験から、日本には細やかな手作業が得意だったり、好きな女性がたくさんいると思っていて、そんな方々に技術を伝えたり、手しごとを通じて伝えられてきた日本の精神性、想いを伝えるような寺子屋のような場所をつくりたいんです。もちろん職人に数年間従事する修行と比べると、伝えきれないところはあると思うのですが、伝統工芸に関わるきっかけや自宅で仕事をしたい方の仕事の一つになればと思っています。」


――興味がなかった伝統工芸にそこまで情熱を注げる理由は?
「有田町の職人さんに出会い、自身が使うことで、職人の想いや手仕事のうつわを使うことで感じる心の豊かさを伝えたい、と思いました。
うつわを使う食卓は心身のパワーチャージをする場所。人の手で作られたうつわや食事をとることで、五感が研ぎ澄まされたり、人の温かさを感じたり、癒されたり、英気を養ったり。
現代は忙しかったり、多くの情報に触れて、疲れている人が多いので、うつわというモノを通して、自分を大切にする時間や、自分をつくった土台でもある日本という国の古き良きことを伝えるのが私やチームの役割なのだと思っています。私たちは作品を作れません。だからこそ“伝え手”としてのあり方を大切にしています。職人さんたちは魂を込めてものづくりをしています。だからこそ、誰かに伝える、広めるということが苦手な職人さんは多い。餅は餅屋じゃないですが、“伝え手”としての役割は自分だからこそできる。

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「HOMARe:」のインスタグラムアカウント:@homare100

とくに有田焼のような伝統工芸は日本が世界に誇る宝。そう思えたのは、昔から旅好きだったからかもしれません。以前はバックパッカーをしていて、スペインに留学で暮らしていたこともあり、海外も好きだけれど、日本の素晴らしさを感じることが多かったんです。技術面の精密さや使い手のことを考えていたりとすごいですが、とくに感じるのは目に見えない部分。余白をつくる、行間を読む、今の瞬間に集中するといった捉え方は日本人にしかできない精神性。そういう目に見えない部分を表現したものが、手仕事なのだと思います。
職人さんたちはその精神性をずっと昔から受け継いできている。そこから生き方を学ぶことは本当にたくさんあります。これからの時代は、海外に通用する人材とは、どこかの国を真似して得るものではなく、日本ならではの魅力やあり方を知ることが何より大事であって、そういったことを伝えていくことが私たちの世代の役目なんじゃないかな、と感じています。」

仕事となると、朗らかな見た目とは裏腹に熱く語るあり彩さん。
スタッフには『関所やぶり』と呼ばれるほど、猪突邁進な仕事人間らしいが、昔から自然とともに過ごすことがエネルギーチャージになっているそう。

――あり彩さんは、東京と鎌倉の二拠点生活なんですよね。
「最近までそうだったんですけど、このたび鎌倉の一拠点にすることにしました。10月に渋谷のスクランブルスクエアで、『On the Table』という”テーブルの上の手仕事”をテーマにしたPOP-UPを企画して開催していたのですが、鎌倉の馴染みのコーヒー屋が出展していたことから、鎌倉の方々がたくさん、わざわざ渋谷まで足を運んでくれて、本当にあたたかい街なんだなぁと再認識して。『やっぱり鎌倉好きだ〜!』と思ったんです。」

――そもそも、二拠点の場所に鎌倉を選んだ理由は?
「最初は葉山で家を探していたんです。母が葉山で暮らしているので、東京でひとり暮らしをしていたときに月1〜2回は通って、自然と触れて癒されて、東京に戻って…を10年ほど習慣にしていました。25歳のとき起業して、とにかく働き詰めの日々だったので、自分にとってオンオフの切り替えになっていました。
いつか葉山に移り住みたいとずっと思っていた最中、今の旦那さんに出会い、結婚したときに『葉山に住みたい』と伝えてたんですけど、旦那さんはあまり興味がなかったらしく(笑)。私はもともとナチュラル志向で自然が好きなタイプで、食べ物もオーガニック系が好き。旦那さんは真逆で肉食、都会が好き!みたいな人。でも、鎌倉だったら葉山に比べて、都会的な便利さもあるし、賛成してくれて。ただ、コロナ渦で、お互い仕事に変化があり、東京にいる日が増えて、最終的に二拠点になりました。」

――実際に住んでみて、改めて感じる鎌倉の魅力とは?
「自然も身近にありつつ、食も日用品もお店もたくさんあるのでとても便利。あとはコミュニティのあり方が素敵。行きつけのお店に行くと、常連さん同士はもちろん観光客の方にも話しかけたり、住んでいる人はみなさん温かくて、受け入れる心が広いんです。」

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あり彩さんが愛用している鎌倉のコーヒー店「Calender」。鎌倉でのコミュニケーションの場

――ライフスタイルについてもお伺いしたいのですが、食事で気をつけていることは何かありますか?
「なるべくペスカタリアンでグルテンフリーを心がけています。普段は近くの漁師さんが捕ってきた新鮮な魚介類を中心にしていて、体調によって身体が欲しているときは、鶏肉を食べることもあります。
グルテンフリーになったのは、小麦アレルギーを発症してから。
25歳で起業したとき、酵素ドリンクの開発と販売をしていたのですが、30歳を目前に小麦アレルギーで突然倒れてICUに入ったんです。いわゆるアナフィラキシーという強いアレルギー症状です。それまで大丈夫だったのに、ある日突然だったので、自分が一番びっくりしました。アレルギーって発症するごとに抗体ができることが多いので、どんどん食べられるものが少なくなってくるんです。最初はパンやピザ、パスタはダメだけどスイーツは大丈夫で、2回目に発症したときはスイーツもダメに。その後揚げ物の衣がダメになり、ハンバーグのつなぎがダメになり…と、8年間くらいはその繰り返しでした。」

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アレルギーを発症してから、より食にこだわるように

――辛いですね。
「だんだん慣れてはきていたので大丈夫なのですが、当時は酵素ドリンクを扱っていて、ファスティング(プチ断食)を広める事業をしていたんです。なので、倒れたときに罪悪感を感じてしまって。健康のことを扱っているのに、自分が健康ではなくなってしまった。
愛用いただいている方々も多くいらっしゃったので、2年ほどじっくり時間をかけてそのブランドを畳みました。その後、Webマーケティングの仕事をしながら少しゆっくりしてて、人生の休暇中という感じのときに有田焼に出会い、『HOMARe:』を立ち上げたという流れです。」

――お仕事もお忙しいと思いますが、今のリラックス方法は?
「私はリラックスするのが苦手で。常に交感神経が優位という感じなのです。なので、意識してリラックスできる時間を作るようにしています。週2〜3回は海沿いのヨガクラスに通ったり、お気に入りのアロマの香りを持ち歩いて疲れたらシュッとしたり、畑仕事をしに行ったり。ととのえるのが苦手だからこそ、いろんな知識やツールを持っておくようにはしています。最近のお気に入りは南部鉄器のベル! 空間の浄化にとてもよくて、とても澄んだ音が鳴るんです。あと気になっているのは真菰。真菰も浄化作用があるといわれていて、古来では邪気を祓うものとしてご神事にも使われていた植物。今、いい真菰がないか探しています。」

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“お守り代わり”の南部鉄器のベル。空間の浄化用に

――日常でととのえることが、仕事のパフォーマンスを上げることにもつながりますよね。
「そうですね。自分をととのえておくことは、伝え手の義務だと思っています。いろいろやること以上に、“やらないこと”も大切にしています。人が多すぎるところは極力避ける、雑談はするけど無駄話は多くしない、とか。あとは『世間がいいと言っていること』もあえて手放すようにしています。自分の魂が本当にやりたいかどうかでなるべく判断したいとは思っています。まだまだ修行中で、手放せてない部分もたくさんあるんですけど…。最近は家事も手放すようにしていて、全部を無理してやらないようにしています。自分が疲れていたら無理せず寝る!を徹底していたら、旦那さんが自然と手伝ってくれるようになってきました。」

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定期的に材木座にあるヨガレッスンに通い、心身をととのえる

――仕事での目標はお伺いしましたが、ライフスタイルではどんな人生を歩んでいきたいですか?
「今までは仕事一辺倒で頑張ってきていたので、これからは個人的な喜びをもっと感じていきたい。仕事ももちろん喜びなのですが、日常でも感じられる何かを始めたいです。例えばアートとか、クリエイティブなことをしたいですね。
あとは、国内二拠点、海外一拠点の三拠点生活をしてみたいです。場所はまったく決めてないので、そのうち心が動く場所を見つけたら、すぐに決めるんじゃないかな。いずれにせよ、心地よい選択をしていく人生を過ごしていきたいです。」

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鎌倉の海にて。海での散歩は、癒しの時間

仕事をバリバリとこなしながらも、鎌倉でのゆるりとした時間も大切にしながら過ごしているあり彩さん。
「自分をととのえることは、伝え手の義務」と話していましたが、どんな仕事でも同じことが言えるかもしれない。
「自分軸」があることと、自分を愛でることを大切にしているあり彩さんの姿は、とてもキラキラしていて健やかでした。

Text by Sonomi Takeo

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